もっとつながろう、もっと楽しもうユニバーサルデザインStory
未来へ歩むヒト・モノ・コトを紹介するコラムです。
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新交通ゆりかもめ「東京ビッグサイト駅」では、2025年3月に全面リニューアルを完了。男女共用トイレとバリアフリートイレ各2室を設置するなど、機能の向上と動線の整理を図りました。
後編では、男女共用トイレとバリアフリートイレの想定利用者を集めて実施したヒアリングの内容をご紹介し、そこから見えてきた「今後のパブリックトイレ」についてお聞きします。
株式会社ゆりかもめ 技術部企画調整担当課長
追手門学院大学 地域創造学部教授
TOTO UD・プレゼンテーション推進部東京プレゼンテーショングループ
TOTO UD・プレゼンテーション推進部UD推進グループ
困りごとは「待ちスペース」や「周囲の視線」
南部聡さん(以下、南部)
石塚裕子さん(以下、石塚)
中村友紀(以下、中村)
木野内祥子(以下、木野内)
新交通ゆりかもめ「東京ビッグサイト駅」の改修からおよそ半年後、TOTOは男女共用トイレの想定利用者を対象にヒアリング調査を実施しました。どのような話がありましたか?
認知症、発達障がい、知的障がいの支援者、性的マイノリティの当事者、そして石塚先生にお集まりいただき、当事者や支援者がトイレで日ごろ困っていること、東京ビッグサイト駅トイレを見学した感想などをお聞きしました。当社はこれまで車いす使用者、発達障がいの方などに個別のヒアリングをした経験はありますが、多様な関係者が一堂に会する形は初めてでした。
2025年9月、男女共用トイレとバリアフリートイレの想定利用者となる方々を集めてヒアリングを実施しました。認知症、発達障がい、知的障がい、性的マイノリティの関係者は、それぞれの特性に応じてトイレを使っていることや、レイアウトや広さ、周囲の理解などで多くの困りごとを抱えている様子が浮かび上がりました
皆さんの特性とトイレの使い方、困りごととしては、次のような話が出ました。
認知症の人の場合、できる限り自分で行いたいというケースが多く、介助者はブースの外で声をかけながら見守ります。しかし、トイレドアの前に待つスペースがないことが多く困るとのこと。また、認知症の人は、設備の操作ボタンが多いとどれを押せば良いのか分からなくなるので、できるだけシンプルな仕様が利用しやすいとのことでした。
発達障がいの場合は、衝動的に行動してしまうことがあり同伴者は目が離せません。着衣の乱れに無頓着な面があるため、介助者が手伝いながら洋服をきちんと着ているかを確認します。
困りごととしては、一緒にトイレに入って手伝いたい場合でも、異性介助できる男女共用トイレが少なく、またトイレ空間が狭いため待っている場所がありません。外見で障がいの有無が分からないので、バリアフリートイレを使う際に周囲の視線が気になる。発達障がいの当人に続いて介助者もトイレを利用したいけれど、待ちきれずに鍵を開けて出ていってしまうことがあるため、結局、介助者がトイレを使う時間がない、といった話が出ました。
知的障がいの人は、尿意や便意を伝えることが難しく、また同じ場所でじっと待つのが苦手といった特性がある人がいます。身体の障がいを伴い体のバランスを取りにくい場合には、大型ベッドに腰掛けさせ介助者が脱ぎ着を手伝うこともあります。大型ベッドがない場合は持参したレジャーシートを敷いているという声も聞きました。
困りごとは、大便器ブースの近くで見守ることができないトイレの場合は本人が施錠や洋服の脱ぎ着をきちんとして出てくるのかを毎回心配してしまう、大型ベッドが設置されたバリアフリートイレが少ない、子どもの前で介助者が排せつするのは抵抗があるため視線を遮るカーテンなどがあると良いが備えている施設が少ないことなどです。ベッドに着座させて自分まで用を足していると計15分ぐらい掛かるため長く占有してしまう申し訳なさを感じる。そうした事情を理解してもらいにくいことがつらい、という話もありました。
それぞれの障がいの特性について説明する木野内さん
性的マイノリティの方々の意見はどうでしたか?
性的マイノリティといっても一様ではありません。今回の参加者はトランスジェンダーとノンバイナリーの方でした。
自分の服装や一緒にいる相手に応じてトイレを使い分けている、視線が気になるため人目にさらされる時間が短くなるように混雑していないトイレを選んでいるという声が聞かれました。人が滞留せずに流れていく駅のトイレは比較的気楽に使えるとのことでした。
困りごとは、自分がここにいても大丈夫かが常に気になり、トイレの利用をためらってしまうこと。性別を問わずに利用できるバリアフリートイレや男女共用トイレの数が限られているので、自分が使ってしまうことを申し訳なく思い、気兼ねしてしまうなどです。
このように、皆さんが外出時にいろいろな不安や困りごとを抱えながら使っている実情を改めて認識しました。
使いたいトイレをいつでも選べるように
異なる属性の人の声からは、どのようなポイントが導かれるのでしょうか?
こうした話から浮かび上がるのは、困りごとに通じる共通点です。
1つは「ゆとり」です。空間的なゆとりだけでなく、時間的なゆとりも確保できるトイレがないために皆さんが困っています。もう1つは「分かりやすさ」。知的障がいの人も認知症の人も、シンプルであることや装置が理解しやすいことが必要です。周囲の理解という点では「視線が気になる」ことも挙げられます。
今回の参加者は外からは見えにくい特性がある人たちでしたが、身体に障がいがある人のニーズも実は変わりません。ゆとり、広さを求める点では車いす使用者も同じですし、設備面では大型ベッドがあると多くの人の利便性が高まります。分かりやすさ、シンプルさの面では、例えば視覚障がいの人から「いろいろな設備が改良される度に使い方が分からなくなって困る」という話をよく聞きます。困っている様子はそれぞれ違いますが、根本的な要素は共通しているのです。
今回の調査では、参加者同士が「あなたも困ってるの?」と困りごとに共感し合う状況が見られました。自分だけではなく、みんなに共通した困りごとなのだと思える状況は大切です。こうした困りごとやニーズを表明していくことは、解決に向けた動きの大きな後押しになるはずです。
男女共用トイレの入り口サイン。トイレ内の設備の種類が一目で分かります
「自分だけの困りごとではないと思える状況は大切」と石塚さん
東京ビッグサイト駅のトイレに対しては、どういう声が出ましたか?
男女共用トイレとバリアフリートイレが2つずつあること、男性用・女性用を含めて見える範囲に近接しているためその中から空いているトイレを把握しやすいこと、選択できることが高く評価されました。異なる階に機能分散している場合、あるトイレが混んでいるからと別の階に移動してもその先でまた並ぶかもしれません。じっと待っていられない特性の人はそこでぐずったりパニックになったりするので、ワンフロアに集約しているのは素晴らしいという声もありました。その他、男女共用トイレは介助者が付き添うのにほど良い大きさであること、バリアフリートイレに大型ベッドやカーテンがあることなども評価されました。
一方で、改善されると嬉しい点として「エスカレーター側にも男女共用トイレの存在が分かる掲示があると良い」「他の個室の空き状況やバリアフリートイレ内の設備配置を事前に把握できると良い」などの指摘がありました。
こうした声をどう分析されますか?
まず、バリアフリートイレと男女共用トイレが 2つずつあることに対し、皆さんが大きな安心感を得ているという点に改めて気づかされました。
個々のトイレをいかに使いやすくするかに加えて、複数用意することによってそれぞれが使いたいトイレをいつでも選べるという安心感を提供することも重要です。私たちはこれまで、多機能トイレに利用者が集中してしまうために機能分散が必要と説明してきました。それだけではなくて、「各自が使いたいトイレをいつでも選べる環境を確保すること」が重要ではないか。そのためにも、バリアフリートイレや男女共用トイレを複数設けることが大切である。調査を通して、改めてこうした点を社会に発信していきたいと思いました。
ハード整備だけでは限界、運用の工夫に課題も
駅を運営していく立場として、利用実態調査や当事者ヒアリング調査の結果をどのように受け止めましたか?
設計時のコンセプトが実現できた部分、逆により充実させるべき面をそれぞれ確認できました。利用者が安心して使えることの重要性も実感しました。今後、ゆりかもめの駅を改修する機会には、カーテンの導入をはじめ今回出てきた意見を反映していきたい。駅の限られた空間の中、どれだけ充実させていけるかが今後の設計側の課題です。
今回はハード面の話をしましたが、バリアフリートイレや男女共用トイレの利用者には事前に調べる人も多いと聞いています。当社ホームページのバリアフリーに関する記述をよりきめ細かくし、的確な情報発信にも努めていきたいと思います。
「アンケートやヒアリングの結果をお聞きでき、とても貴重な機会となりました」と南部さん
東京ビッグサイト駅での経験も踏まえ、TOTOとしての今後の展望をお聞かせください。
当事者ヒアリング調査では、設備の内容を具体的に示した情報があれば、自分が使えるトイレを把握でき、まっすぐに目指せるという指摘もありました。現在はピクトサインでトイレの設備を表示していますが、利用者はさらに具体的な情報を求めていることを知りました。
今回、一部とはいえ、多様な特性を有する人の話を聞くことで、皆さんが同じ悩みを抱えている状況が分かりました。当事者以外の人も、こうした方々の存在を知っていれば、例えばバリアフリートイレを長く占有していることへの理解も深まるでしょう。相互理解の風土を醸成していくためにも、今後も多様な人の声を聞き、話し合い、広く伝えていく機会をつくっていきたいと思います。
アンケートや目視の調査では、配慮を必要とするさまざまな方に使われ、高評価を得ている状況を確認しました。当事者ヒアリング調査でも、選択肢のあることが皆様の使いやすさにつながっていると確認できました。TOTOは、今後も多様な利用者が使いやすいトイレ環境整備に向け、情報収集と発信を続けていきたいと思います。

「皆さんの特性はそれぞれですが、周囲の視線を気にしていて、安心してゆっくりトイレを使えないという悩みは同じです」と木野内さん

「今回は、動線の再構築から考えて男女共用トイレを導入されました。こうした事例を紹介することで、悩みを抱える他のお客様の後押しもしていければ」と中村さん
今後のパブリックトイレには、どういうことが求められていくのでしょうか?
長年、多様なニーズに個々に対応した多機能なトイレを整備していくという方向で進んできました。でも今後は、「誰かのためのトイレ」ではなく、みんなの共通した困りごとをカバーし、誰もが使いやすい「私たちのトイレ」がパブリックトイレである、という価値観へと転換するのではないでしょうか。皆がそう思うようになれば、利用者が遠慮することなく、安心感を持ってトイレを使えます。
ただし、ハードでできることには限界があります。空間に制約がある中、運用面でどう対応していくか。例えば、女性トイレの待ち行列が長い時に、男女共用トイレの空き具合の情報を示すなど、運用面の工夫で改善する余地はありそうです。パブリックトイレの使い方を知ることで、互いに譲り合う意識も醸成されるでしょう。TOTOさんには、そんな情報発信も期待しています。
バリアフリートイレや男女共用トイレが複数あることが利用者に大きな安心感を与える…。今後のパブリックトイレ整備に向けて、示唆に富んだ座談会となりました
編集後記限られた駅舎を全面的に見直しながら、より多くの人たちが使いやすいトイレを目指したゆりかもめの「東京ビッグサイト駅」。男女共用トイレとバリアフリートイレ、それぞれを使いやすくするための動線など、コンパクトな駅舎にトイレを使いやすくする工夫がちりばめられています。何よりも自分や同伴者の使いやすいトイレを気兼ねなく選べるのは、ありがたいこと。このようなパブリックトイレが増え、年齢も障がいの有無も問わず、安心して外出できる社会となることを期待しています。編集者 介川 亜紀
写真/鈴木愛子(特記以外)、取材・文/守山久子、構成/介川亜紀 2026年6月19日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。