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未来へ歩むヒト・モノ・コトを紹介するコラムです。
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新交通ゆりかもめ「東京ビッグサイト駅」では、2025年3月に全面リニューアルを完了。男女共用トイレとバリアフリートイレを各2室設置するなど、機能の向上と動線の整理を図りました。
前編では、ゆりかもめ、TOTOの各担当者および改修後の当事者ヒアリングのアドバイザーを務めた識者の座談会をもとに、既存駅の課題解決に向けてどのように計画や工事を進めたかを振り返ります。あわせて、改修後の利用実態調査の結果もご紹介します。
株式会社ゆりかもめ 技術部企画調整担当課長
追手門学院大学 地域創造学部教授
TOTO UD・プレゼンテーション推進部東京プレゼンテーショングループ
TOTO UD・プレゼンテーション推進部UD推進グループ男女共用トイレとバリアフリートイレを2つずつ用意
改修後の「東京ビッグサイト駅」のトイレ付近の図面。設計:後藤建築事務所株式会社


左/東京ビッグサイト駅のエスカレーターとトイレ付近。改修する前は袋小路になっていた男性・女性トイレ前の通路を、通り抜けできるようにしました。バリアフリートイレ1は、改札からエレベーターへ向かう途中に設置。車いす使用者などにも見えやすい配置に。右/黒い扉が男女共用トイレ、グリーンの扉がもうひとつのバリアフリートイレ2(写真提供/TOTO)




男女共用トイレ(上段)とバリアフリートイレ(下段)。いずれも左右勝手違いの2室ずつ用意しました。男女共用トイレは、オストメイトに配慮したブース(上左)と乳幼児連れに配慮したブース(上右)を設けました。バリアフリートイレには、大型ベッドのほかカーテンなども設置しています(写真提供/TOTO)
南部聡さん(以下、南部)
石塚裕子さん(以下、石塚)
中村友紀(以下、中村)
木野内祥子(以下、木野内)
改修前の東京ビッグサイト駅は、どのような課題を抱えていましたか?
開業当初は新橋駅~有明駅間の営業だったため新橋駅からのお客様がほとんどでしたが、その後、豊洲駅までの延伸によって豊洲側から訪れる方も増えました。2方向からの人の流れを受ける形になり、お客様の動線が錯そうしていました。
配置にも課題がありました。エスカレーターは、ゆりかもめの他の駅では駅の奥側にあるのに対し、東京ビッグサイト駅では中央に配置されているため動線を組むのが難しい。また、改修前の男性トイレと女性トイレは袋小路の突き当たりに位置し、トイレ利用者は細い通路内を往復しなければいけませんでした。清掃の際には利用を一旦制限して作業する必要が生じるなど、管理する側も大変でした。
全ての機能を集約した多機能トイレが1つあったので、車いす使用者にはここを使っていただいていましたが、トイレを出てからホーム行きのエレベーターに乗るまでに、エスカレーターの前を横切る必要がありました。改札からエスカレーターへ向かう乗降客と動線が交錯していたのです。また、多機能トイレが一つだけだったので、車いす使用者やベビーカー利用者が多機能トイレに集中して混雑しやすいということもありました。
これらの多様な課題を解決するために、トイレ、エレベーター、エスカレーター、改札機、駅務室の位置などを見直して全面改修しました。
どのような改修を目指したのでしょうか?
2021年に基本設計を始める際に、まず設計事務所と当社のメンバーで話し合って「デザイン、機能、環境」というキーワードを挙げました。
この駅は東京ビッグサイトの最寄り駅です。デザインについては、1995年開業当初の「国際展示場正門」という駅名を2019年に「東京ビッグサイト」に変更したこともあり、周辺の街との連続性を意識しました。床面を黒い色調とし、落ち着いた印象を与えつつ視覚障害者誘導用ブロックが強調されるようにしました。
東京ビッグサイトで開催されるイベントに応じて、車いす使用者や子ども連れなど多様なお客様が利用されるのが当駅の大きな特徴です。そこで機能上、多くの人に使いやすい駅を目指したいと考えました。環境の面では、ゆりかもめの駅改修としては後半に実施したプロジェクトなので、これまで改修した駅で使われていた廃材を再利用するなどの工夫をしています。
これらを集約して「環境に優しい、多くの人が使いやすい、みんなに優しい駅」というコンセプトを掲げ、改修計画を進めました。
具体的な改修内容についてお聞かせください。
トイレの大便器を全て洋式に揃えたほか、バリアフリートイレを1つ増やして2室とし、さらに男女共用トイレ2室を新設しています。合わせて、駅務室の位置を移して袋小路だったトイレの前を通り抜けられるようにするなど、お客様の動線をシンプルに整えました。
改札フロアの改修前(上)と改修後(下)の平面図。トイレの改修に合わせて駅務室を図面上側から下側に移転し、車いす使用者と乗降客の動線が交錯しないようにしました。2つのバリアフリートイレは、乗降客から目に入りやすい位置に配置しています(資料提供/ゆりかもめ)
従来のトイレはホームに向かう人とホームから下りてくる人の方向によってトイレが見つけにくいことがありました。そこでバリアフリートイレ1は、車いす使用者が改札から入ってきた時にまず目に留まり、かつトイレ使用後にホームに上がるエレベーターまでの最短ルートに当たる場所へ配置しました。その結果、エスカレーターを使うお客様と車いす使用者の動線の交錯がなくなりました。
ホームに向かうとき、ホームから下りてくるとき、いずれの場合もトイレが目に留まりやすくなることを意識しました。
奥のエレベーターや階段の正面に配したバリアフリートイレ2。ホームから下りてくる人にもすぐ分かるようにしました
なぜバリアフリートイレに加えて、男女共用トイレを設けたのですか?
利用者の選択肢を広げたかったというのが大きな理由です。このようなトイレは社会的にも今後増えていくでしょうから、先進的に導入したいという思いもありました。また私自身の子どもが小さかったので、親子で気軽に入りやすい男女共用トイレは使い勝手が良いのではないかと感じていました。
コンセプトに掲げた「みんなに優しい駅」とは、利用者だけでなく私たち運営側に対しても優しいことを意味しています。掃除や駅の管理を担当する人は、これまで清掃する時に困っていました。駅が常に混んでいるので、掃除のために男性トイレと女性トイレの利用を制限する必要がありました。その点、男女共用トイレがあればそちらを案内できるので大変助かります。
計画に当たっては、現場の声を拾い上げて設計に反映しました。工事開始後も担当者たちの意見を聞きながら設計変更を重ね、より使いやすい形を求めていきました。
東京都の福祉局などにも相談しながら情報収集しました。「都でも男女共用トイレを推進していく方針と聞き、では当社が実践しましょうという話になった。都からも後押ししていただきました」と南部さん
管理する人たちの具体的な声をどのように拾い、男女共用トイレの有用性を社内に向けてどう広めていったのですか?
当社は200人ほどの組織で、大半が駅の係員など現場の人たちです。直接話ができる規模なので、社内のあちこちの部署をかけ回って現場の困りごとを拾い上げました。説明に際しては、男女共用トイレを導入すればこういう困りごとを解決できるよというふうに具体的に伝えていきました。
利用者だけでなく、管理する側の困りごともしっかり拾い上げていくのはとても大切です。素晴らしい取り組みですね。
公共トイレの調査研究も数多く手掛ける石塚さんは、利用者だけでなく、運営する側のニーズも拾い上げることの重要性を示唆します
運営スタッフ向けの勉強会を実施
計画に際しては、TOTOがトイレに関するコンサルティングを行いました。どのように連携していきましたか?
基本設計に入る前の2021年7月に、ゆりかもめさんからトイレの考え方に関する提案を依頼いただきました。ゆりかもめの駅では、以前から機能分散がしっかりなされ、オストメイト、乳幼児連れ、車いす使用者配慮などの整備も進んでおり、設備の配慮レベルも高い。そこで、男女共用トイレを必要としているさまざまな人に向けてご提案しました。
その後、ゆりかもめさん側で設計を進める過程で、設計事務所を含めて何度かやり取りをしました。男女共用トイレを2カ所備えた当初プランができた段階では、「より配慮するのであれば、乳幼児連れやオストメイトにも配慮したらどうか」「2室あるので、左右勝手違いにしてはどうか」などとキャッチボールを繰り返しました。
東京ビッグサイト駅のトイレ改修には、TOTOがコンサルティングの立場で参画しました
計画の過程では、いくつものレイアウトを検討。上図のように書き込みを行い、キャッチボールして設計を進めていきました(資料提供/ゆりかもめ)
今回は既存駅の改修のため、排水勾配(※)に制約があったり配管が既存の梁とぶつかったりなど、配置を検討していく過程でさまざまな支障が出てきました。全てを調整しながら設計するのは大変でした。
(※)排水を促すために排水管などにわずかに傾斜をつけること
そもそも男女共用トイレやバリアフリートイレを2カ所ずつ設置することは、すんなり決まったのですか?
当初は社内でも、特に男女共用トイレについて「本当に必要なのか」という声がありました。また、駅全体の3分の1もの面積をトイレに割いてどうするんだ、と。
バリアフリートイレに取り付けるカーテンも、管理する側からは、いたずらや損壊などを心配する声が出ました。でも、当事者ヒアリングを開催し「介助するのは家族(身内)だけではない」などのリアルな話を聞き、ちょっとした気遣いの大切さを実感していました。ですから、ここは周囲を説得してでもカーテンを入れるべきだと思いました。
社内向けの勉強会も開いたと伺いました。
男女共用トイレの導入に際してまず必要だったのは、社内で理解を深めることです。利用者から問い合わせがあった時に、管理者がきちんと対応できなければいけません。また、計画の決裁を得るためには会社の上層部に理解してもらうことも重要です。TOTOさんに複数回勉強会を開いてもらったことで、ユニバーサルデザインに対する会社全体の認識が高まったと思います。
勉強会は、幹部向けと現場の担当者向けを別々に行いました。
まず2022年2月に計画者、幹部の方向けにオンラインで実施しました。車いす使用者やオストメイトのトイレ利用の話、また男女共用トイレを必要とする、性的マイノリティや異性介助をする人の話などをしています。その後、2023年5月に現場の責任者に対面での勉強会を行い、現場の担当者向けには7月に3日に分けて対面で開催、20人以上が参加されました。対面の勉強会では動画などをお見せしながら、より具体的にイメージできるようにご説明しました。
「男女共用トイレの導入に向けて幹部や現場スタッフを対象に勉強会を開き、社内の理解を深めていきました」と、南部さんは振り返ります
社内の理解を深めながら計画を進めたのですね。改修工事は2023年5月から2025年3月にかけて行われました。
既存の駅を使いながら改修するため、トイレやエスカレーターなどの機能を残しつつ工事を進める必要がありました。まず仮設トイレをつくるかどうかを検討し、最終的には南側にバリアフリートイレを新設して工事中の仮設トイレを兼ねる形にしました。
何より苦心したのは、工事期間中もなるべく利用者にご迷惑をかけないようにすることでした。トイレなどの機能を少しずつ置き換えていくため、途中でエスカレーターの上りと下りを入れ替えるなど、設備を切り替えるフェーズが多数発生しました。まずここを止め、次にあそこを止めてというように、ピンポイントのタイミングで切り替える必要があったので、動線変更の手順書を多数作成して対応しました。
東京ビッグサイトでは、夏冬のコミックマーケットや秋の国際福祉機器展などの大規模イベントも開かれます。コミックマーケットの終了後にトイレの解体を始めるなど、開催イベントに合わせて工程を細かく調整し、できるだけ支障が出ないよう努めました。
男女共用トイレなどを利用した9割が「満足」
完成後のトイレは、実際にどのように使われているのでしょうか?
完成から約半年たった時期に利用実態調査を行いました。どのような人がどの程度使っているかを目視とカウントで調査し、出口アンケートも実施しています。
調査は、東京ビッグサイトの利用者層が異なる平日と休日の1日ずつ行いました。日曜は子ども連れが多いイベントが開催された8月末、ビジネスユーザーの多い平日は10月です。
全てのトイレに対し、2日間合計で2974組が利用し、このうち男女共用トイレとバリアフリートイレの利用はのべ234組でした。休日は約半数が子ども連れで、大きな荷物を持っている人や高齢者の介護で利用されたケースもありました。当初想定されたさまざまな人の利用を確認できました。
アンケート調査の結果を見ると、利用目的は、平日は100%が自身の用を足すためだったのに対し、休日の約半数は同伴者の用足しも目的でした。
満足度については約90%が「満足」という回答でした。複数のお子様を連れた人も多く、「こうしたトイレが増えると助かる」という声もありました。「性別を問わずに利用できる男女共用トイレが駅で普及していくことに賛成ですか」という問いには8割以上が賛成と回答し、「男女共用トイレがあることが利用しやすさにつながりますか?」との問いにも8割が「そう思う」と答えています。総じて、実際に使用した人からは高い評価を得ました。
「男女共用トイレという先進的な取り組み事例ということから実態調査を行いました」と中村さん。アンケート調査は、実際の利用者に声をかけて実施しました


設計時も現場を回している時も苦労しました。その分、完成後に利用者が満足されているという話を聞くのは嬉しいですね。
写真手前の木野内さんは当事者へのヒアリング調査を担当しました。調査の結果は、後編で詳しくお伝えします
写真/鈴木愛子(特記以外)、取材・文/守山久子、構成/介川亜紀 2026年5月15日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。